進学先に考えている方へ

2019.03.13改訂 担当教授 髙田 滋

当研究室では,分子運動論とそれと密接に関係する流体力学的な話題を取り上げて研究を行っています.とくに従来の流体力学では上手に現象説明ができないような,学問上の境界領域の事柄に関心があります.流体力学,気体力学,熱力学,平衡統計力学,微積分学,線形代数の標準的な学部までの教程を履修済みであることを期待します.これらの学問領域に強い苦手意識があったり,どうしても考え方に馴染めなかった方は他の研究室を選ばれることをお勧めします.逆に,これらの領域の科目内容を十分に習得できていないと感じている人でも,強い関心があってもっと理解したいと思っているなら,一緒にやれるはずです.

研究でどんなアプローチをとっているか,どの程度のアクティビティがあるか,どんな人たちとの接点があるかなど,より具体的な研究活動のイメージをつかみたい方は,このホームページの研究集会やセミナーの記録,私の個人ホームページをご覧いただくとよいでしょう.大まかに言って,私のところでやっている類の研究は,欧州では応用数学者がやっていることが多いです.

ここでやっている取り組みの理解につながると思うので,すこし個人的な経験を書きます.30代前半に1年間海外留学した経験がありますが,留学先は数学科(フランス)でした.実は内心少し抵抗を感じていましたが,分子運動論に限らず,学術としての流体研究の事情はだいたい似たようなものではないでしょうか.私は数学者などでは全くなく,力学をやるために道具として初等的な「数学」を使うことがあるだけですが,工学研究科の機械工学群の中では微積分をよく使う部類のようです.大学の学部までを理学部で過ごした経歴を持ちますが,自分が受けた教育の核は工学研究科の大学院時代(航空工学専攻)のものです.たまたま門をたたいた研究室が基礎研究をやっていたこともあり,私の感性では工学と理学の垣根はほとんどありません.垣根をあまり感じていないと書きましたが,工学部の研究室と理学部の研究室とでは何かスタンスが違うのかなとも思います.わたしは大学院生のときに工学研究科の研究室に入りましたが,研究が論文として世に出るまでの過程を適当な手伝い仕事をしながら無理なく経験できるように導いていただきました.早熟さからは程遠かった私にはとてもよい勉強になりました.知らず知らずのうちに,研究室選びで,自分の人生を大きく左右する良い選択をしていたと思っています.私の恩師は指導が厳しいといわれていた,当該分野を代表する高名な学者でしたが,そのことは研究室に入ってから他の人から教わりました.変な先入観を持たずに入ったこともプラスに働いて,委縮せず伸び伸びと振舞わせてもらえました.

さて,当研究室への配属が決まったら,「これも何かの縁」と考えて私のところでの研究をまずは楽しんでください.仮に希望した先ではなかったとしても希望どおりに事が運ばないのは人生において往々にしてあるものです.いつまでも隣の芝が青いと思うよりも,現状を楽しむ気持ちに早く切り替えることが大切だと思います.(こういうのは生き方のコツというか貴重な時間を無駄にしない秘訣なのかなと思います.20代の若いときにはピンとこないでしょうが,人生は短いものです.時間が無限にあるわけではないことを忘れずに.)きっかけは何であれ,やり始めてみると面白いことはいろいろと見つかるものです.ちなみに,私は最初から研究者として大学に残るつもりで進学したのではありません.やっているうちに面白くなって,他のことへの関心を越えてしまったといったところです.

大学を卒業してすぐ社会に出ず,大学院への進学をあえて選ぶからには,ぜひ,その期間を人一倍楽しみ,打ち込んでほしいと思います.進学率が高くなったせいなのか,「ひとつの(大きな)選択をした」とはっきり意識している人は少ないように感じます.大学院は(勉強ではなくて)研究をするところだということは進学前にはっきりと認識する必要があります.研究というのは未知の事柄に取り組む業ですから,学生か教員かに関係なく,皆に平等に「最初の発見,解明」の機会が与えられます.自分の研究課題に没頭し,掘り下げたもの勝ちなのです.たとえ将来研究者にならなくても,「しっかり掘り下げていったなあ」と思わせる人は社会に出てからも高い評価を得て技術者や科学者として存分に活躍しています.自分の考えをしっかりと突き詰めて吟味したり,裏付けになる良質のデータを取ることの大切さを肌で感じる感性が育ったからではないでしょうか.こういう感性は自発的に取り組んで没頭し,楽しんだ経験をしないとなかなか育たないものです.

だいぶ前に何かの機会に知っただけで出典を覚えてませんが、世の中には,こういう体験を経て「変貌する」「スイッチが入る」ことを「君は相転移を起こしたか?」と表現して学生を啓発する方もおられます.若い人を啓発する絶妙な言葉(専門用語)の選択だと思いました.人一倍打ち込んで楽しんでみるという経験は,知らず知らずのうちに,自分の視界や意識を高いところに引き上げてくれます.わたしの研究室でそのような経験ができればよいと願っています.